21、隠鉄砲有之村方咎之事 (寛保元年極) ○鉄砲を隠し所持致し候者は→江戸十里四方並びに御留場内においては遠島、関八州にては中追放、関八州の外にては所払 (同) ○隠し鉄砲を打ち候ものは→右同断 (同) ○隠し鉄砲を所持した村方、他方より参り打ち候村方の名主組頭→江戸十里四方並びに御留場内においては重過料、関八州にては急度叱り (同) ○隠し鉄砲所持致し候者、五人組は→江戸十里四方並びに御留場内においては過料、江戸十里四方にては軽き過料 (同) ○隠し鉄砲打ち候村方、同じく所持致し候村方惣百姓は→御留場の内にて一ヶ年の過怠として鳥番 (同) ○廻り場の内鉄砲三度以上打ち候を存ぜず候はば→御留場内にて野廻りの役儀取り放つべし 但し野廻りの居村に隠し鉄砲を所持いたし候ものこれ有るに於いては役儀取り放つべし (享保6年極) ○隠し鉄砲打ちを捕らえ候ものは→江戸十里四方並びに御留場内においての御褒美、銀二十枚 (同) ○同訴人仕り候者は→右同断、銀五枚
※註 隠し鉄砲=猟師以外の庶民は鉄砲を所持できず、猟師も支配役所へ預り証文を提出せねばならず、江戸十里四方での発砲は禁止されていた 御留場=禁猟地域 廻り場=御留場を巡回監察する野廻り役の巡回地域 急度=きっと、「急度叱り」は厳しく叱り付けること
22、御留場に而鳥殺生いたし候もの御仕置之事 (従前々之例) ○網或いは黐縄(もちなわ)にて鳥殺生いたし候者→過料 (同) ○鳥殺生いたし候村方並びに居村→名主は過料、組頭は叱り (同) ○隠し鳥を売買いたし候もの→双方とも過料 但し度々売買いたし候とも同断
※註 名主・組頭=村役人のこと、一般的には名主(庄屋とも)・組頭・百姓代を村方三役と呼ぶ、地域によっては五人組頭も村役人に準ずるものとして扱われている、村役人の身分は百姓である
23、村方戸〆無之事 (元文5年極) ○村方へ戸〆を申し付けざる軽き儀は、叱り又は過料それぞれこれ御定めこれ有り候事 (元文5年、延享2年極) 但し江戸町続きの村方、町奉行支配の町の分は戸〆をも申し付けべし、しかれども過料にて済むべき分は過料たるべし、村中にても侍体のものは戸〆にも申し付けべく事
※註 村方=ここでは村方三役(名主・組頭・百姓代)のこと 戸〆=家の門を釘付けにして謹慎させる庶民のみの刑罰
24、村方出入に付江戸宿雑用并村方割合之事 (寛保3年極) ○すべて公事或いは願いの儀に付き江戸宿へ詰め居り候内の雑用で、双方ともに一村へかかり候儀は銘々持高割りに申し付けるべし、其の身一分の出入は当人より出すべし、若し差し出し難き身上に候はば親類での割合に申し付けるべし、しかれども邪なる不届の儀願い候を五人組のものども存じながら異見をも加えず其の分に捨て置き相願い候はば、不埒に候右の類は五人組も割合申し付けべく候 (同) ○公事相又は願い等の儀に付き吟味の内に江戸宿預になる雑用で、一村へかかり候儀は村高割合に申し付けるべし、其の身一分の儀は当人より出すべき候、其のもの御仕置になり候はば身代限りにこれを償うべし (同) ○すべて村方より狼藉又は不届ものの類を百姓が心付け召し捕らえ出し候節は、路用並びに江戸逗留中の入用は公儀より下されるべし、若し又他所より差し口或いは外より願い出候て奉行所並びに御代官所より捕らえに遣わし候類は心付けず捨て置き候儀にて、不念に候とて村中割合に申し付けべき事 (寛保4年極) ○公儀並びに地頭へ相納め候役かかり其の外の村入用、公事出入の入用等の儀は高割になすべき事 但し入作百姓どもにも一同割合申すべく事 (同) ○山方野方浦方或いは塩浜等、無高又は小高にて家数多い場所は、家抱えの下人ども人別割に申し付けべく事 但し妻子は人別割にこれ除けべく事 (同) ○山林野原の類で入会地を割取り候節は、入作百姓ども一同高割になすべき事 (同) ○祭礼入用勧化奉加等の儀は申し合い心次第になすべき事 (同) ○前々から割合決め置き、出入これなき所は只今までの通りになすべき事
※註 村方出入=一村あげての訴訟裁判 江戸宿へ詰め居り候内の雑用=訴訟には日数がかかり、その準備や江戸滞在にかかる諸雑費 身代限り=「身体限り」とも書く、財産すべてを提供して債務の返済をする制度、欠所とは異なる 差し口=密告、あるいは証言のこと 不念=不注意のこと 入作百姓=他村の百姓が自村に入ってきて耕作すること 入会地=いくつかの村が肥料用に採草したり燃料用に伐木したりする山林原野 勧化・奉加=勧化は神仏への寄進集め、奉加はその寄進
25、人別帳にも不加他之もの差置候御仕置之事 (寛保2年極) ○人別帳にも加えず、他のものを差し置き候もの→当人並びに差し置き候ものどもは所払、名主は重き過料、組頭は過料
※註 差し置き=人別帳に記されていないことを知りながら放置しておくこと
26、賄賂差出候もの御仕置之事 (寛保3年極) ○公事諸願い其の外の請負い事等に付きて賄賂差し出し候もの並びに取り持ちいたし候もの→軽追放 但し賄賂請け候もの其の品相返し申し出るにおいては、賄賂差し出し候もの並びに取り持ちいたし候ものどもで村役人に候はば役儀取り上げ、平百姓に候はば過料申し付けべく事
27、御仕置に成候者欠所之事 ○磔 ○火罪 ○獄門 ○死罪 ○遠島 ○重追放 (従前々之例)(延享2年極) 右御仕置を申し付け候者は田畑家屋敷家財とも欠所申し付けるべし、中追放は田畑家屋敷、軽追放は田畑欠所申し付けるべし、家財は中・軽追放ともに欠所に及ばず、吟味の内に病死致し候とも吟味を詰め御仕置申し付けるべし、吟味決め置き候上病死致し候はば、伺いになるべき筋の御仕置のものは伺いの上欠所申し付けべく事 (延享元年極) 但し下手人は欠所に及ばず、この外専ら利欲に拘わり候類の者は江戸十里四方追放並びに所払にても田畑家屋敷欠所申し付けべき貪りたる儀これなきにおいては欠所に及ばず (従前々之例) ○妻子の諸道具其の外寺社付きの品は構いこれなき事 (同) ○御扶持人にても重追放以上は欠所の仕方右同断、中追放・軽追放は家屋敷ばかり欠所、家財は欠所に及ばず (元文5年極) ○私領の百姓が公儀御仕置になり田畑家屋敷とも欠所の節は、地頭へ取り上げ申すべき旨申し渡すべく事 (寛保3年極) 但し田畑質地に入り置り候はば証文吟味の上定法の質地相違これなきにおいては、質入れの田畑を払う代金の内をもって質に取り候者へ元金相渡すべし、金高が不足に候はば地面にて相渡すべし、若し又年貢滞りこれ有れば右質入れの地面を払う代金をもって先の年貢引取り質取り主は残金の内をもって元金相渡すべし、尤も金高が不足の分は金主は損失となすべく事 (従前々之例) ○夫が御仕置になり欠所の節は妻持参金並びに持参の田畑家屋敷も欠所に致すべき事 但し妻の名付きにてこれ有る分は欠所に及ばざる事 (寛保元年極) ○御仕置になり候もの又は欠落の者が欠所の節は、当人が貸し置き候金子並びに売掛金・手形帳面等これ有り候とも借り主より上納に及ばざる事 但し借り主は右金子の儀に付き不埒の儀もこれ有り候はば、取り立て上納致すべき事 (延享2年極) ○町・在ともに家屋敷質に入れ置き候ものが御仕置になり右屋敷欠所の節は、金子請け取りたき旨願い出候はば証文吟味の上相違なきに於いてはこれ又質地同然に申し付けべく事
※註 火罪・獄門・死罪・下手人・軽追放=火罪は放火犯に科した火あぶりの刑で引き廻された上で処刑、獄門は斬首された上で首を三日間晒される刑、死罪は斬首された上に死体が様切り(ためしぎり)に供される刑、下手人は斬首のみの刑で死体は取捨、軽追放は江戸十里四方(日本橋が基点)・京都・大坂・日光街道筋・東海道筋の居住禁止 欠所=通常は「闕所」(けっしょ)と書く、重罪に付加される財産刑のこと
28、地頭え対し強訴其上致徒党逃散之百姓御仕置之事 (寛保元年極) ○頭取→死罪 ○名主→重き追放 ○組頭→田畑取り上げ、所払 ○惣百姓→村高により過料 但し地頭の申し付けに非分これ有れば其の品に応じ一等も二等も軽く相伺うべし、未だ進まずこれなきに於いては重き咎に及ばざる事 (同)(従前々之例) 村々百姓徒党結び騒動強訴せしむ或いは逃散の者これ有り候節、名主又は組頭等が差し押さえ徒党に加わらざる村方これ有るに於いては→名主にても組頭にても第一差し働き取り鎮め候はば御褒美銀下され其の身一生帯刀いたし名字は永く名乗りなすべく候 但し其の品軽きは御褒美銀計り下されべく事
※註 強訴=ごうそ、ここでは百姓一揆のこと 逃散=ちょうさん、耕作地から逃げること 頭取=主犯、徒党の首領
29、身体限申付方之事 (従前々之例) ○田畑屋敷家蔵家財取り上げ (寛保2年、同4年極) 但し他所に家蔵これ有る分も取り上げ、尤も金子は立ち合い吟味の上、金高不足候えば追って身上取り立て次第相かかるべき旨申し付け、金高より余分にこれ有れば滞る金に応じ相渡し申すべき候、小作が滞れば身体限り、田畑屋敷は金主へ渡し置き候上年々作徳をもって滞る金相済ますにおいては、地所元地主へ相返すべき候事 (享保6年極) ○店借に候はば→家財取り上げ 但し地借にて家作が自分に仕り候はば家財家作ともに取り上げ申すべく事
※註 小作=他人の田畑を耕作する貧農 店借・地借=店借(たながり)は土地も家屋敷も持たない賃借人、地借は土地を持たないが家建物を持っている者
30、田畑永代売買并隠地いたし候もの御仕置之事 (延享元年極) ○田畑を永代に売り候もの→当人は過料、加判名主は役儀取り上げ、証人は叱り ○同買い候もの→永代売りの田畑取り上げ (従前々之例) ○高請けこれなき開発新田畑等、其の外の浪人侍等が所持の田畑→永代売り構いなし (延享元年極) ○質に取り候者が作り取りにして、質置き主が年貢諸役勤め候分→質置き主は過料、質に取り候もの地面取り上げ過料、加判名主は役儀取り上げ、証人は叱り (寛保2年極) ○隠し地いたし候もの→中追放
※註 永代売り=永久に売り渡すこと 高請け=検地帳に記載された収穫高 作り取り=耕作して収穫しても年貢を納めないこと、年貢諸役は質取り主が負担すべきことであり、質入れ主に頼納(らいのう、年貢諸役とも負担)や半頼納(諸役のみ負担)させることは禁止されていた、質取り主は質地を用益できるから、この収益が利子の代わりとなり、質入れ主は利子を払う必要はないとされたのである 質置き主=質入れをする者
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31、質地小作取捌之事 (元文2年極) ○年季明け十ヶ年過ぎ候質地→流し地 但し流し地の文言これなき証文は、年季明け十ヶ年の内に訴え出候はば済まし方申し付けべし (従前々之例) ○年季内の質地→年季明け請け戻し候ように申し付けべし (元文2年極) ○年季限りこれなく金子有り合わせ次第請け戻すべき証文→質入の年より十ヶ年過ぎ候はば流し地 ○十ヶ年以上の年季の質地→→取り上げなし (寛保3年極) 質地の名所並びに位反別これなく或いは名主加印これなき不埒な証文→年季の差別なくば取り上げなし名主は過料、尤も名主が質入の儀存ぜざる証文に於いて加判致さざるは咎に及ばず 但し右の金主を地主が承り届け相対の上で地主を定めたら、水帳を相改めるべき旨を名主へ申し渡すべし、尤も名主これなき村方は組頭の加印これ有るに於いては定法の通り済ますよう申し付けべし (寛保元年極) ○年季明け請け戻さず候はば流し地に致すべき由の証文→年季明け候期月より二ヶ月過ぎて訴え出候はば流し地 但し年季明け請け戻さず候はば永く支配又は子々孫々まで構いなき旨かつ又この証文をもって支配致すべき或いは名田致すべき等の文言を、流し地の証文に准じて申し付けべく事 (従前々之例) ○質地の元金の済まし方申し付け候上で返金が滞り候はば→地面は金主へ渡し流し地 但し小作が滞り候はば、棄損なすべき事 ○質地証文の文言が宜しく、小作の証文が不埒に候はば→質地定法の通りの裁許は小作滞りの分申し付けず ○又質元が地主の加判これ有る証文→元地主の済まし方定法の通り申し付けべし (寛保元年極) 但し又質の節増し金借り請け候はば其の分は又質置き候ものに済まし方申し付けべく事 ○御朱印地寺社領の屋敷とも譲渡し質に入れ候社寺→江戸十里四方追放 但し譲り請け質に取り候者が地面相返すとも重過料申し付けべく事 ○小作滞り→質地日限りの通り申し付け其の上相滞り候はば身体限り申し付けべし (延享2年極) 但し作徳の儀米金ともに金主と小作人が決めの通り済まし方申し付けべく事 ○小作証文これなき候とも別小作の相違なき本証文が定法の通りに候はば→質地元金ばかり裁許申し付け小作滞りは申し付けず、尤も地面は小作人より地主へ引き渡すべし (従前々之例) 但し直小作にて証文これなき分で書き入れが准本証文宜しき候とも質地の法には裁許申し付けざる事 (従前々之例) ○小作証文これなき候とも質地証文小作の儀書き加えこれ有り候はば→質地金小作金とも申し付けべく事 ○家守小作滞り請け状の通り相違なきにおいては→当人請け人とも済まし方申し付け滞り候えば両人ともに身体限り申し付けべし (延享元年極) ○質地の年貢ばかり金主より差し出し諸役は地主相勤め候証文→年季の内に候はば定法の通り証文仕直させ、質置き主は叱り、質取り主は過料、加判の名主は過料 但し年季明け候はば地面請け戻すべし、年季明け二ヶ月過ぎ候はば定法の通り流し地申し付け、両様ともに本文の通り咎申し付けべく事 ○質入れの地面を半分直小作いたし質地の高残らず年貢諸役とも地主より相納め候証文→右同断 (従前々之例) ○二十年以上の名田小作は→永小作申し付けべし (寛保4年極) ○質地元金年季の内に内済いたし年季明け残金これ有る旨出入に及び候においては→内済の金子は地主へ相返し流し地 (追加)(従前々之例) ○質に取り置き候地面にて直小作滞りの儀を金主訴え出候においては→小作滞りばかり済まし方申し付けべし 但し日限りの通り相済まさず候はば地面取り上げ相渡すべし (同) ○質地元金並びに直小作滞り日限り済まし方申し付け候節は、小作滞りの金高に構わず元金日限りの通り申し付けべく事
※註 日限り済まし方申し付け=「日限済方」(ひぎりすみかた)の命令で、特定の期間内における全額弁済の命令を裁判所が発すること 名所・位反別=質地の場所、上田・中田・下田などの等級、面積 棄損=きえん、ここでは債権を放棄すること 家守=やもり、家主と同じ、土地持ち家屋敷持ちから管理を依頼されて、地代や店賃を徴収し、町用・公用を務める者 作徳=作得の意で、耕作して得た収穫物 直小作=質入れした田畑を質入れした当の地主(債務者)が直接小作すること 小作金=小作料を収穫した物でなく金銀銭で納める際の納入額
32、質地滞米金日限定 ○五両以下・五石以下→三十日限り ○五両以上十両まで・五石以上十石まで→六十日限り ○十両以上五十両まで・十石以上五十石まで→百日限り ○五十両以上百両まで・五十石以上百石まで→二百五十日限り ○百両百石以上→閏月とも十ヶ月限り ○二百両二百石以上→閏月とも十三ヶ月 (従前々之例) 右日限りに准じ済まし方申し付け相滞り候はば地所を金主へ相渡すよう申すべく候、尤も其の人の身上に応じ取り申すべく候事
33、借金銀取捌之事 ○借金銀○祠堂金○官金○書き入れ金 ○立て替え金○先納金○職人手間賃金 ○手付け金○持参金○売り掛け金○仕入れ金 ○諸道具預け証文にて金子借り候類 ○諸物売り渡し証文にて金子借り候類 ○御家人または御用達町人等で拝領屋敷地代店賃を書き入れ金子借り候類 (延享3年極) 右の分、延享元年以来の滞りは毎月四日二十一日呼び出し、三十日限り済まし方申し付けるべし、右日限りの節少々も相済まし候はば一ヶ月両度宛て切り金に差し出し其の上にて済まし方不埒に候はば身代限り申し付けべき事 但し呼び出し候節参らず候もの又は済まし方申し付け候ても不埒の輩これ有れば、武士方は御老中へ申し達し寺社在町方は急度咎申し付けるべし、かつ又不埒の貸し方の類は吟味を遂げ其の品により金主の者を相咎めるべく事 ○地代金→三十日限り済まし方申し付けべく事 ○店賃金→右同断 (従前々之例) 右二ヶ条日限りに相済まさず候はば切り金に差し出し其の上済まし方不埒に候はば身体限りに申し付けべき事 ○連判証文これ有り諸請け負い徳用割合請け取り候定め→仲間事に付き取り上げなし ○芝居木戸銭→仲間事に付き取り上げなし ○無尽金 (寛保元年極) 但し証文確かにこれ有り候とも仲間事に相決め候に付いては一向取り上げまじき事 (従前々之例) ○日寄り付け込み帳に記し候借金印形これなき分→取り上げなし ○宛て所これなき証文・年号これなき証文→右同断 ○証文の末に利息定め書きこれ有るもので、其の所に印形これなき利息→右同断 ○家質金質地金並びに諸借金にて宛て所これ異なる証文をもって訴え出候もの→右同断 但し証文譲り請け候由申し候とも、証拠これなきに於いては取り上げ申しまじき事 (寛保元年極) ○家質銭 ○諸借金→利息一割半以上の分は一割半に直すべし (追加)(従前々之例) ○百姓を相手取り候借金出入は地頭借りに相聞こえ候とも、地頭の裏印並びに役人の奥印これなきにおいては地頭借りには相立てざる事
※註 祠堂金=祠堂修理の名目で、祖先供養のため寺院へ寄付するもの 書き入れ金=貸借契約の一つで、抵当のこと 切り金=分割にして支払う金銭
34、借金銀取捌定日之事 ○毎月四日、二十一日 (延享3年極) 右毎月両度借金銀の公事訴訟ばかり承り、これ裁許申し付けべく候
35、借金銀分散申付方之事 (寛保元年極) ○金銀借り方の者身体分散の節、貸し方の内で少々不得心の者これ有る由の願い出候はば分散請け候よう申し聞かせ、若し不得心に候はば得心の者ばかりへ分散割合を行い相渡し申すべき候、尤も借り方の者身上持ち次第割合請け取り候ものも請け取らざるものも一同に追って相かかり候ように申し渡すべく事
※註 身体分散=破産のこと 身上持ち次第=財産状況が好転してくること
36、家質并船床髪結床書入証文取捌之事 (従前々之例) ○家質金→何ヶ年以前にても金高に応じ日限り済まし方申し付けべく事 (享保5年極) 但し日限りの上滞るにおいては家質相渡すべし、日限りの内宿賃も済まし方申し付けべく候、尤も年季の内にても宿賃滞り三ヶ月過ぎて訴え出候はば取り上げ申すべく事 家質金滞日限定 (寛保2年極) ○金三十両以下→四十日限り ○金三十両以上→六十日限り ○金五十両以上→八十日限り ○金百両→百五十日限り 但し百両余は見合って日限り申し付けべし (享保5年極) ○金千両以上→閏月とも十二ヶ月限り 右日限り内の宿賃も済ませ方申し付けべく事 (寛保2年極) ○拝領屋敷家質入れ出入に及び候においては→屋敷取り上げ家屋敷主は百日押込 但し書き入れにいたし金子借り候も、家質金同然の事 (従前々之例) ○髪結床廻り場所或いは船床書き入れ証文→家質に准じ、金高に応じて日限り済まし方申し付けべし 但し日限りの上相滞り候はば証文の品相渡させ申すべき事 (延享元年極) ○寺社付きの品書き入れ又は売り渡し証文をもって金子貸借いたし候においては→借り主は追院、証人寺院に候はば逼塞、俗人に候はば手鎖 但し金主は不埒の貸し方に候とて済まし方の沙汰及ばず (従前々之例) ○確かなる質物をもって借り候金銀→家質に准じ、金高に応じて日限り済まし方申し付けべし (追加)(延享元年極) ○為替金→家質同然、金高に応じ日限り済まし方申し付けべし 但し日限りの上滞るに於いては家質相渡すべく事
※註 押込=武士・庶民に科された刑で、一室に閉じ込め外との接触を禁止したもの、部屋に牢格子を造ったり場合もあり、座敷牢がそれに当たる、20日・30日・50日・100日の軽重があった 船床=船を多く所有する船宿のこと 髪結床=髪結いの店 追院=僧のみに科された刑で、居住する寺院から追放するもの 逼塞=武士と僧に科された刑で、30日ないしは50日の間門を閉じ昼間の外出を禁止するもの 為替金=実物の金銀銭を遠隔地へ送るのは不便かつ危険なため、証書によって送金する金銀銭のこと
37、二重質二重書入二重売御仕置之事 (寛保2年極) ○田畑屋敷二重に質入れ致し候もの→質入れ主は中追放、名主は軽追放、加判人は所払 (延享元年極) 但し二重書き入れも同断、田畑屋敷建て家等は初の金主へ相渡し後の金主へは家財取り上げ相渡すべし、尤も名主と加判人が馴れ合い礼金取り候はば→中追放、後の金主存じながら質地書き入れ等証文を取り候に於いては→江戸十里四方追放 (寛保4年極) ○諸商い物の代金を請け取り其の品を渡さず外へ二重売りいたし、または取り次ぎ遣わすべき品を質に置き、並びに売り払い金銀を横取り致し候者→金子は十両より以上・雑物は代金に積もり十両位より以上は死罪、金子は十両より以下・雑物は代金に積もり十両位より以下は入墨敲 但し先に入牢申し付け代金または商い物にて相済まし候においては、十両以上は江戸払、十両以下は所払 右買い取り候者は若し不念の品これ有るに於いては、其の品取り上げ申すべく事
※註 入墨敲=敲(たたき)は「箒尻」(ほうきじり、割竹2本を麻糸で巻き込み、その上を観世紙繕[かんぜこより]でさらに巻き込んだ竹刀形の棒)というもので肩・背・臀を50回ないしは100回(重敲)打つ刑、入墨は追放・敲の刑に付加されるもので腕にする、再犯は増入墨、三犯は死罪となった
38、廻船荷物出売出買并船荷物押領いたし候者御仕置之事 (寛保2年極) ○廻船の荷物を出売り出買い致し候もの→売り主買い主とも重過料 但し荷物代金ともに取り上げ荷物は問屋へ相渡し申すべく事 ○打ち荷或いは破船と偽り荷物を横領致し候もの→船頭は獄門、上乗りは同罪、水主は入墨の上重敲 但し吟味の上浦証文これ有り候とも類の船これなく、また差して船いたみ申さず候ところ打ち荷いたし候においては、船頭は過料十貫文、上乗りは同三貫文、水主は構いなし (寛保3年極) ○難風に逢い打ち荷いたし候と、残りの荷物を盗み取り候船頭と馴れ合い浦証文差し出し配分を取り候名主→其の所に於いて獄門 ○同盗んだ荷物を自分の土蔵へ入れ、預り置き配分取り候もの→死罪 ○同船頭の宿いたし馴れ合い村中のものへ申し勧め配分取り候もの→遠島 ○同百姓の内で中心となって持ち運び世話いたし配分取り候もの→重追放 (従前々之例) ○同盗んだ物を配分取り候惣百姓→配分の品取り上げ村高に応じ重過料
※註 出売り出買い=相手先へ出向いて売買すること 打ち荷=荷打ちともいう、嵐に遭った廻船が難船とならないよう積み荷の一部を投棄すること 破船=難破船あるいは沈没船 上乗り=荷物を監視して守り送る役 水主=かこ、平の船乗り 浦証文=海難事故証明書のこと、打ち荷した船頭が最初の着船港で、浦役人(そこの名主と代官の手代)に打ち荷した旨を届け出ると、浦役人が残存荷物船具などを検査して目録を作る、これを浦証文あるいは浦手形と呼んだ、破船の場合も同様の手続きとなるが、正徳元年(1711)に幕府は破船の際、揚げ荷をした者が受け取る報酬を規定している、浮荷物は20分の1、沈荷物は10分の1、その品相応の現品の支給だった、寛政7年(1795)からは現金銀の支給となった
39、倍金并白紙手形にて金銀貸借いたし候もの御仕置之事 (寛保元年極) ○倍金並びに白紙手形にて質地借金等取り遣り仕り候もの、不埒に付き済まし方これ沙汰に及ばず、双方並びに証人とも過料申し付けべく事 但し金主借り主過料員数の儀は例に拘らず身上に応じ重く申し付けべく事
※註 倍金=田畑を質入れし、証文には実際の倍以上の借金をしたように記しておくこと 白紙手形=貸し主が勝手に金額を記入できるよう、借金の金額が記されていない手形
40、偽之証文を以金銀貸借いたし候もの御仕置之事 (享保17年極) ○金銀借用証の文及び露顕候ては立て難き筋又は支配頭或いは顕われ候て申し分相立て難き者の名を、偽りの文言の内へ書き入れ金銀借り候もの→死罪 但し右の趣存じながら貸し候においては貸し候ものも同罪 |