■江戸年中行事&風俗                                                   江戸と座敷鷹TOP  江戸大名公卿TOP

飛鳥山の花見
 
王子飛鳥山の花は、上野の桜が散ってから開く。品川御殿山は掘り崩したため桜の名所ではなくなったが、飛鳥山は依然として古色を残す桜の名所である。ただ江戸市中から遠いため人出は多くないけれども、相応の賑わいがかえってよい。閑静な土地であり、物売る商人なども質朴だ。
 帰りが夜になるのは避けたいものだが、興趣の湧く自然が多く、春の野道伝いを歩くと場所ごとに異なる趣きがたっぷりある。
 飛鳥山上から小土器(こかわらけ)を投げて、遠くへ飛び落ちるのを興とする遊びは、当所の名物である。

御殿女中宿下がり
 町家より諸侯方へ勤め奉公に上がる女子は、行儀作法を覚えるためである。奉公するにあたって芸能の試みを受け、堪能であることが知られて召し抱えられることを、「お首尾(しゅび)したり」という。ゆえに素養の修業は大切といえる。
 こうした女中たちが主人より宿下がりといって、当月内に御暇(おいとま)を賜(たまわ)る。期間は五日間から十日間くらいである。
 御殿女中のなかには直参がおり、直参女中は殿君や奥方に使え奉(たてまつ)る。直参は終身の奉公が多いが、宿下がり女中は終身奉公は少なく身分役目が卑しい者が多い。
 いずれにしても宿下がりの費用が多く、世間への外聞のため両親は費用を惜しまず、ただ他人を羨(うらや)ましがらせるのを第一とする。

道灌山の花見
 日暮里道灌山は、桜花は少なく山下の寺院庭園に少しあるくらいだが、ここから飛鳥山が遠いことを厭(いと)う者はここで遊ぶ。小土器(こかわらけ)を投げて遊ぶところは飛鳥山と同じである。