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古書と幕府医学1                                                    江戸と座敷鷹TOP  江戸大名公卿TOP

 

医心方(いしんほう)

■いまでは見直されているが、漢方薬と聞くと30年ほど前までは西洋医学と比べると一段も二段も低い医術と思われていた。顔にデキモノができた時に、おばあちゃんから桃の葉の汁を塗れば治るといわれた思い出がある。子どものわたしは半信半疑だった。効き目があったかどうか、市販の軟膏を塗った記憶はないから治ったのだろう。
 戦国時代の武士は紫根(しこん)の粉末を袋に入れて出陣したそうである。紫根とは紫の染料をとる植物の根を乾かしたもので、日本で最も古い止血剤だ。組織を収斂させる性質があり、例えば刀で斬られた箇所に紫根を塗ると、出血している組織がきゅっと引き締まって膜ができ、やがて血は止まる。
 こうした治療法が、「医心方」という大部な医学全書に載っているという。平安時代に鍼灸博士を務めた丹波康頼(たんばやすより)が30巻に纏めた。

■事故などで手足を切り落とす場合がある。いまなら落ちた手足を拾って大急ぎで病院へ行くが、30年ほど前までの西洋医学では一度切り離された手足は、1分以内であろうとつながらないとした。皮膚組織を縫合しても骨・筋肉・神経・血管がくっつくわけがないと決め付けていた。
 ところが日本では平安時代から、手足が切り落ちたら拾って帰り、四半刻(しはんとき 30分)以内のものなら縫合してくっつけていた。考古学の樋口清之氏によれば、足を接合して10年以上生きたと推定できる骨を古代墳墓から掘り出したという。ただし、少しズレてつながったために接合部に節の痕跡があったらしい。
 文化元年(1804))に世界で初めて全身麻酔手術をした華岡青洲は、いかにもオランダ医学の徒のように見えるが、使用した脳中枢神経麻酔薬のチョウセンアサガオは、オランダ医学からではなく「医心方」からヒントを得たものという。
※参考文献・樋口清之著「逆ねじの思想」(角川文庫)

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