■こはだのすし 寿司箱を重ね蓋(ふた)の上に紅木綿を掛けて彩(いろど)りを装う。これを肩に担(にな)い水浅黄(みずあさぎ、黄色味のある青色)の染手拭、衣類、股引、腹掛から足袋、草履まで新調して正月二日を待つ。その甲斐あって、春霞たなびきそめし大空を寿司店の天井とし、門松の柱に注連縄(しめなわ)の衝立(ついたて)が垣間見える家並みを、ゆるゆる歩きながら、「こはだのすしィー」と呼ぶ声は、正月には必ずほしい呼びものである。
■宝船 正月二日の正午(ひる)過ぎ頃から夜にかけて、七福神乗合船の図の上に、「長き夜のとうの眠りのみな目ざめ波のり船の音のよきかな」という歌を駿河半紙に墨摺(すみす)りにしたものを売りに来る。 「お宝お宝エー宝船宝船」と呼ぶ声が町屋、武家屋敷前で聞こえる。この宝船の図を枕の下に敷いて二日の夜に眠れば初夢の吉兆を見て今年の運が開くという。また、宝船を売り歩けば身の幸福を得るといわれ、若旦那たちの道楽で知られる家に呼び止められ、お互いに笑い合うこともあり、また宝船売りのお得意先の職人衆の家に呼び入れられ、御酒を御馳走になって端歌清元の隠し芸を披露するなど、二日の宵の口にあることなり。 |