■寒行僧 寒の入りより諸寺院の僧は、老壮とも未明に起き出して冷水で身を清め、念仏三昧の寒行を勤める。なかには毎夜鉦を打ち鳴らしながら、江戸市中を修業する僧もいる。これを寒念仏という。まことに心寂しい感じがあり聞いていても寒気を覚えてしまう。僧の身拵(みごしら)えは木綿の衣一枚の法衣、足袋などは履いていない。
■寒参り 一に裸體(はだか)参りといふ 諸職人の弟子小僧はみな十ヶ年の年期中にその職業を覚える。だが手練・手術・意匠が難しいため、神仏の加護を得て秀でた技量人になろうと難行を思い立ってから寒三十日(かんみそか)までの間、日が暮れれば主人より若干の休息を願って水垢離(みずごり、冷水を浴びること)をして身を清め、裸に素足、白木綿の鉢巻をして長提灯を携え鈴を打ち鳴らして、不動尊か金毘羅大権現に願を立て一心に技量が上がるのを祈るのである。
■年の市 年の市なので〆飾りや山草(やくさ)、神棚の宮桶の類い、餅台、羽子板、凧、鞠などを始め日用什器を商う店が立錐(りっすい)の余地がないほど夥(おびただ)しくある。 市が第一に開くのは、十二月十五日の深川富ヶ岡八幡宮である。当日、猿若町三座の芝居の舞納めとするのは例年と同じ。十七、八日の両日は浅草観世音の年の市、十九日は当山蓑市で蓑を売る。この観音の市は江戸で名高い年の市で夥しい群集となる。二十、二十一日は神田明神社の年の市で浅草に劣らぬ人出で溢れ返る。二十二、二十三日は芝神明宮の年の市、二十四日は芝愛宕権現の年の市、二十五日は麹町平川天満宮の年の市、二十八日は薬研堀不動尊の年の市。その他にもあるが、数え上げるほどの市はない。 |