■七月朔日の夜 毎年七月朔日の夕方より、江戸市中では店ごとに盆提灯を店の軒下に吊るす。大店は大きな瓜形の白張りの盆提灯を点す。大伝馬町のような大店が連なるところは、戸々に白張りの盆提灯を吊るす。また、切子燈籠(きりこどうろう)を点す店もある。今夜より八月五日あるいは七日まで毎夜点して仏の供養とする。八月以後は無縁仏に供すという。
※切子燈籠=四角な枠の角を切り落とした形に組み、四方に造花を付け紙を細く切って飾り垂らした燈籠。
■七夕の竹売 七月六日より七夕祭なので、竹枝に五色の紙を短冊状に切って結び付け、屋上より空高く立てる。これは牽牛と織女へ贈る気持ちの現われである。 竹を商う者はほどよいものを担い、市中を売り歩く。「竹や竹や」の声が響かないところはない。裏店(うらだな)に至るまで必ず求めるものである。
■七月七日七夕祭 例年七月七日は七夕祭なので色紙を結び付けた竹に、酸漿(ほうずき)を幾つとなく数珠のように連ねたものを結び、色紙を網状に切ったものや吹き流し、硯筆、西瓜の切り口、鼓、太鼓、算盤、大福帳などを作って、高く屋上に立てる。その連なった様は実に見事で空を覆うばかりだ。まるで大江戸の泰平繁昌を知らせているようである。 竹を立てるのは昨日六日からだが、今日の夕方には一本残らず取払って川に捨てる習いである。 この数日前より児童の習字の師匠は、七夕の詩歌を手本にして学ばせる。色紙に書いて竹に結ぶ時は、筆道が上達することを児童へ伝える。なお、忌服(きぶく、近親が亡くなり一定期間喪に服す)のある家では七夕を立てることは忌(い)む習いである。 |