■江戸年中行事&風俗                                                   江戸と座敷鷹TOP  江戸大名公卿TOP

深夜往来の飲食
 前記した「夜明し」は深夜の飲食についてであり、寒い夜などはとりわけ便利であろう。この他は冬の夜に限ぎるおでんかんざけというもの。他に夜鷹蕎麦と呼ぶもので、年中毎日夜明けまで商っている。この夜鷹蕎麦売りには怖い話も多いという。深更(深夜)に路上で飲食する者は普通の人だけとは限らない。ましてこの蕎麦のごときは担い売りなので歩き回るため、恐ろしいことにばったり出会う可能性が高い。担い箱の屋根裏に風鈴を吊るしてあるから、歩くにしたがって、チンリンチンリンチンリンそばウはウイチンリンチンリンと、物悲しく物寂しい声音を響かせて遣って来るのである。

夏暁(なつあかつき)の井戸端
 夏の短い夜は、奉公人たちの目覚めが遅くなるものである。大通りを除いた横町で年中早起きする家業に、鍛冶職、豆腐屋、搗米屋(つきこめや)、菓子屋、洗湯風呂屋(せんとうふろや)、髪結床がある。担い売りの商人で早いのは豆腐屋に納豆売り、春夏はつまみ菜売りを第一に、まず人は起き出すと井戸端に集まるものだ。水を汲み顔を洗い、手桶に水を汲んで運ぶ者が多いのである。

白玉水うり
 白玉を紅白に作り瀬戸の美しい鉢皿に盛り、砂糖を山のごとく皿に盛り上げ、真鍮(しんちゅう)の朝顔形(あさがおがた)の水呑みを磨き輝かせ、色鮮やかな画燈籠(えとうろう)ときれいに鬼燈(ほおずき)を吊った担い箱を掻(か)いた男が、勢いよく向こう鉢巻をして、「エひアら、ひアこイ、ひアら、ひアこイ」と呼びつつ売り歩くのである。
 町々の木戸際にも白玉水の定店(じょうみせ)が出る。この店は腰掛けの台を据えたり、(よし)で日(ひおい)などをすることができた。