■魚河岸の初売 日本橋の北詰より数丁四方一円を魚河岸と呼んでいた。正月二日は初売りで、魚問屋の主人たちは新しい小袖を着重ねして、泥水にまみれても嫌な顔をせず幾度も着替えて魚を扱うのを繁昌の吉祥(きっしょう、よいきざしの意)とした。 魚河岸に入り込んで来る鳥追、角万歳、、獅子舞のために、魚問屋はかねてより白紙に銭をひねったものを、台の上に山なりに積み置いていた。 ■初荷 初荷は二日の朝早くから出す。これは日本橋八、九町以内の商家、大問屋のみが行った。商品を新しい車の上に載せ、店印屋号(みせじるしやごう)を記した弓張提灯(手に握る部分が弓に似ている。祭り提灯とも言う)を多く灯して車上に挟み、新調の印半纏に揃いの染手拭を着けた車力、常より多い丁稚たちが車に綱を付けて引く。革羽織を着た鳶頭や人足が付き添う車のなかには行燈を車上に飾ったものもある。 引き回す場所は、東は両国川内、南は新橋を限り、西は御堀端、北は筋違御門の内とし、この日はみな午前中に自分の店へ引き上げるのだが、途中に酒や屠蘇を飲んで浮かれ、獅子舞を雇って空の車上に乗せ、囃(はや)しの太鼓で賑(にぎ)やかに帰る者たちもいた。 |