■蓮華の花は開いた 女子遊びなり 数人の子供らが互いに両手を握り合って大声で、「蓮華の花はひらイた、ひイらいたとおもたら、やツとこさと、つウぼんだ、つウぼんだつウぼんだと、おもたら、やツとこさと、ひイらいた」と、互いに開いたり互いにつぼんだりしている内に躓(つまず)いたり倒れたりする。怒ったり泣き出したりすることもあって仲間が手を離し崩れてしまう。そんな幼い女子の遊びである。
■鬼ごッこ男女とも此遊(このあそ)びをなす ぢゃん拳に負けた者が鬼となって逃げる者を捕らえる。年に差がある時は年長の者のみ鬼となる。年少の者が鬼となった時は、自分以上に年少の者は捕らえない。年少の者を味噌糟(みそかす)と言って数外とする。
■いも虫ころころ 男女とも十歳未満の児童の遊びである。互いに帯へ取り付き腰を折ったまま足を運ぶ。左右に頭を振り身を振り、「いもむしアこウろこウろ、ひょうたんぼツくりこ、いもむしアこウろこウろ、ひょうたんぼツくりこ」と呼びながら六、七人連なって足を運ぶ様は、あたかもいも虫が這っているようだ。
■麦湯店 夏の夜に麦湯店が出るところは江戸市中に諸所ある。場所によって多いのは十店以上、少なくても五、六店は下らない。大通りにも一、二店ずつ他の夜店の間に出ている。横行燈に「むぎゆ」とかな文字で書いてある。また、桜の木に短冊の画を描き、その短冊の画に「むぎゆ」と書いてあるのもある。行燈の元には麦湯の釜や茶碗などがある。その周りに涼み台を並べ、紅粉粧(こうふんよそお)った少女が湯を汲んで給仕している。少女の浴衣模様が涼しげであり、帯を締まりなく結び紅染めの襷(たすき)はほどよく、世辞(おせじ)の調子に愛嬌があり、媚びても猥らにならないところはさすが江戸の名物である。 麦湯、桜湯、くず湯、あられ湯の他に菓子などはない。茶代は高くなく涼風もあって客が絶えない。夜遅くまで店を出している。 |