■江戸年中行事&風俗                                                   江戸と座敷鷹TOP  江戸大名公卿TOP

富士講中登山出立(ふじこうちゅうとざんしゅったつ)
 富士講中は、みな講名を付け、江戸府内に数十の講中がある。一講で多いものは百余名に及ぶ。少ないものでも五十戸は下らない。一講ごとに必ず先達となる行者(ぎょうじゃ)がおり、世話人などもいる。みな家業を持つ一戸の主人で、家業の閑(ひま)に信心から講中の世話をしているのであって、自分の利益からではないのである。それどころか、家業で稼いだ利益を講中へ注ぎ込むほど尽力している。これを一方より見て、信心道楽などと評されることもある。
 毎年六月前より富士登山をする。一講あたり三人から六、七人が先達の指図に従い道中の辛苦より登山の艱苦(かんく)を嘗(な)める。冥利冥加(みょうりみょうが、神仏が知らず知らずのうちに与える利益)をわきまえ身の奢侈(しゃし)を慎むなど実地修業である。山中にも種々の禁制があり、心の穢(けが)れを清め六根清浄(ろっこんしょうじょう)の御山(みやま)の有り難さを知るという。
 登山の旅装は質素にして勇ましい出で立ちである。白木綿の行衣(ぎょうい)に手甲脚袢(てっこうきゃはん)、草鞋で踏み歩く。これに白の鉢巻、名玉(めいぎょく)を連ねた数珠(じゅず)を手襷(たすき)に掛け、菅笠には講中の印を付け、金剛杖をついて歩く。肩に掛けた鈴(れい)の音がさながら不浄を払って響くようである。旅中の先達行者は、とりわけ宿駅において敬われるという。

※六根清浄=六根とは、六識を生ずる六つの感官である目・耳・鼻・舌・身・意の総称。これに清浄が付くと、六根が福徳によって清らかになることを指す。また、山参りの行者や寒参りする者などが唱える語の意味もある。

金魚売
 
金魚は高価な品になると、王公貴人が玩(もてあそ)ぶところから普通のものとは別品となる。桶を担って江戸市中へ売り歩くものや、縁日に出す金魚は児童が玩ぶものである。
 金魚売の商いは年々夏の初めから秋の初めまで。売り声の「めだかアきんぎょウー」の節は、どこか暑さを洗うように聞こえて来る。

ところてんや
 ところてんやの担い箱は格子になっている。箱の中を透かして見せるのは、涼しさを示すためである。なるべく箱を杉の青葉で装い、ところてんに注ぐ醤油酢を入れた徳利(とっくり)の口にも杉の青葉を差し込んである。ところてんの商人は夏中江戸市中を幾人となく売り歩く。「ところてんやアかんてんア」と呼び歩く。

風鈴売
 荷箱に糸立莚(いとだてむしろ)の日除(ひよ)け屋根を覆い、箱の周囲にも種々の風鈴を吊って静かに売り歩く。呼び声はないが、風鈴は風にさそわれ涼やかな音色を送ってくる。ただ大雨の時は売り歩かない。