■灌仏(かんぶつ) 四月八日は灌仏会(かんぶつえ)である。一向宗を除く寺院では灌仏会を行う。その第一は将軍家大奥における灌仏会である。千代田城という冊子に江戸市中では、向こう両国回向院の灌仏会が夥(おびただ)しい参詣人を集めるとある。その他の寺院も群をなす参詣人の数である。 灌仏堂は、大殿は六尺四方から二尺四方くらいまでとす。彫刻などで美を尽くしたものもある。屋根上に草花を葺(ふ)いたものなどは作り菓子のようにきれいだ。その花御堂(はなみどう)のなかに唯我独尊の尊像(釈迦如来像)を安置し千歳茶(あまちゃ)を灌(そそ)ぐ。この灌いだ千歳茶をいただいて墨を磨(す)り流し、五大力菩薩(ごたいりきぼさつ)と三行に書いて衣類の櫃(ひつ、ふたが付いた大きな箱)に入れて置く、すると衣類の虫喰(むしばみ)の害を防ぐ。また、「千早振 卯月八日(ちはやふるうげつようか)は吉日(きちにち)よ、かみさけ虫をせいばいぞする」と書いて家の柱に貼る、すると毒虫の害がなく家々みなこれを行う。 灌仏式がある当日寺院の門前で青竹の手桶を作って商うのは、千歳茶をいただく器にすめためである。また、葭(よし)の芽やペンペン草と俗称する草を売るのは、葭の芽は児童たちが笛にし、ペンペン草は毒虫の害を防ぐので、毎夜灯(とも)す行燈に吊ったり雪隠の隅に吊って置くのである。 この日早朝より児童たちは早起きをして、千歳茶(あまちゃ)をいただきに行くのを楽しみにしている。ゆえに諸寺院の群集は正午(ひる)過ぎには姿を消すのが常なのである。 |