■日比谷稲荷初午祭 初午(はつうま)は二月初めの午の日である。然(しか)れども稲荷祭は二の午三の午の日にも行われる。ただ初午の当日は武家屋敷、寺社地を始め寺院のなかに安置された稲荷社から町方の裏家奥にある一小社まで祭礼が行われる。なかでも王子稲荷や妻恋稲荷、芝の烏森稲荷などは江戸府内屈指の初午祭を行う。前日より太鼓の音が江戸府内に満ちて湧くがごとし。
■市中の初午祭 江戸府内に稲荷社のない所はない。地所あれば必ず稲荷社を安置して地所の守り神としている。初午祭が盛大に行われる地所ばかりではないが、必ず行われるのは裏長屋の入口、露地、木戸の外に染幟(そめのぼり)一対を左右に立て、木戸の屋根へ武者を描いた大行燈(おおあんどん)を吊るす。露地の長屋から表通りの地所の内で借地借家の戸々に地口画(じぐちえ)の田楽燈籠をかかげ、稲荷の社前で地所内の児童が太鼓を打ち鳴らして踊り遊ぶ。借地借家の住人より集金して社前へ供物をあげる。以上は最も寂しい祭礼であり、祭費はみな地主の負担とするのである。
■涅槃会(ねはんえ) 例年二月十五日は涅槃会で釈尊御入滅(しゃくそんごにゅうめつ)の画を描いた幅物(ふくもつ)を諸所の寺院が本堂に飾る。涅槃会の供養も行われゆえに当日諸寺へ老若男女の参詣が多い。 |