■江戸年中行事&風俗                                                   江戸と座敷鷹TOP  江戸大名公卿TOP

薮入り
 
正月十六日、七月十六日は丁稚奉公(でっちほうこう)の薮入り日である。工商とも十三、四歳より工を覚え商を習おうと良工良商を選び奉公へ出る。これを丁稚小僧という。年季は凡(およ)そ十年である。
 この丁稚たち例年正月十六日の薮入りには主人より衣類から身の回りの物などを与えられ、小遣い銭を貰って自分の親元へ帰る。両親を始め兄弟に会い墓参から親類への音信を済ませ日暮れまで心のままに遊ぶのである。遊ぶ所は数あって好みによるが十中七八までは芝辺りが親元だと芝増上寺山内、上野辺りだと上野東叡山内浅草で観世音浅草寺奥山などであろう。
 丁稚たちの姿は木綿綿入に襦袢胴着(じゅばんどうぎ)、小倉織の帯、千種色の股引白足袋に粗末な雪駄、帯の結び目に扇を差す。これが商家の丁稚薮入り小僧の出で立ちである。大伝馬町大丸店や上野広小路松坂屋のような大店の丁稚はみな遠国出身の者なれば、みな一同に付添い人に従って芝居見物をする。
 この薮入りの前夜は、夜中に眠れぬほどの楽しみなのだという。

大師河原の初詣
 
初大師詣は江戸の都を出て、東海道の入口品川の駅路にかかる川崎大師河原まで、往復六里余りを春の日の終日かけての旅となる。高輪の海上景色を見渡し、見慣れぬ畷道(なわてみち、あぜみちの意)で駕籠屋が乗れと勧めるのを、客が戯れ半分に賃銭の値引きをしたりするのは野路における愉快なことである。
 昼飯は蒲田(かまた)の梅林(ばいりん)で、一服一銭のお茶と香の物の珍味がある、あるいは川崎の万年屋もよろしい。夕飯は品川の川崎屋を定めとする。日暮れに品川へかかると宿の飯盛君(めしもりぎみ、私娼)が華美をつくして見世をはっている。土産は大森の海苔と麦藁細工、鳶凧(とんびだこ)、蒲田梅林の香の物などとする。